水晶妃甘色夜話 第三夜:揺動:

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カタツムリが殻を閉ざしても マイマイカブリはその殻膜を
難なく溶かして ちゃっかり中へもぐりこんで来てしまう。

ジホにとって貴子とは そんな困った天敵だった。

 
「・・・・」

「・・・・」
私のことなど気にせずに 奥へ行ってくれたら良いのに・・・。

執務室の外を これみよがしに ウロウロと行き来する貴子の姿を
伏せた眼の端で捕らえたジホは 仕方なく 愛想笑いを浮かべた。

 

「・・ようこそお越しくださいました」

「うふふ お邪魔いたしま~す」

「・・・・」
「“ご主人様”は お忙しそうね」

「いえ。 ・・あの 奥におりますから どうぞ」

「ええ。 それじゃ」
——–

 
だ・か・ら!   主語がないのよ “鬼軍曹”はいつも!
さっそく菓子鉢を抱えながら 貴子の気炎は吹き上がっていた。

ジホの態度に焦れている貴子を 珍しいもののように眺めながら
スジョンは 運ばれてきた紅茶に角砂糖を沈めた。

世情は次第に騒がしく 紅茶などの嗜好品は手に入りにくくなっていた。

紅茶は スジョンが飲みたがったので ジホが手に入れてくれた物だった。

ソウル中の店にない物を ジホは どうやって手に入れるのだろう?
自分は我がままを言ったのではないかと スジョンは少し心配していた。

 
「“奥におりますから”なんて 冷~静~なお顔で言ってくれちゃって」

「・・それは 何がいけないのだ?」

「だぁって! 普通なら“家内は”とか“スジョンは”とか言うじゃない?
“鬼軍曹”ったら晶さんを 妻と呼ばないようにしているのよ」

「以前は 姫様と言うておったからな」

貴子は昔からの友だちだから 今更“当主”とは 言いにくいのだろう。

 

「そ・こ・なのよ!」

彼はもう 晶さんの旦那様でしょう? 何で“スジョン”って呼ばないのよ。

貴子はふくれっ面をして 菓子を1つ口へ放った。
・・貴子こそ 人の亭主を“鬼軍曹”と 昔のあだ名で呼んでおるぞ。
スジョンは内心思ったが 口には出さずに紅茶を飲んだ。

 

 

「ロマンティック」と「ハンサム」に 貴子は 呆れるほど目がなかった。
オルグの青年が美形だからと 反政府集会にまで行く彼女は

美しいジホが 身分差を乗り越えて親友と結ばれたいきさつを
まるで映画か演劇の 一大ロマンスのように考えているらしく

ジホが メロドラマの主人公よろしく スジョンへ甘く囁くシーンを

何がなんでもこの眼で見たいと 激しく思っているのだった。

 

「・・あれじゃ執事だった頃と変わらないじゃない。 もぉ水臭いったら」

「紅茶が冷めるぞ」
「ジホさん。遠慮しているのかしら?」

「え・・?」

「まあねぇ。 主家のお嬢様を 妻呼ばわりは気が引けるのかなあ」

「・・・・」
「でも旦那様が 妻に気がねするなんてねぇ」

「・・・・・・」
——-

 

「ジホ」 

「・・・」

見ればスジョンは 寝床の上に ちょこんと行儀良く座っていた。

膝で夫へにじり寄ると はいと言わんばかりに胸を張る。
それが大胆な誘いだなどと スジョンは 夢にも思っていないのだろう。

ジホは 柔らかく微笑むと 傍へ寄って夜着を解き始めた。

 

夜着を脱がすと スジョンの腕がジホの首へ巻きついた。

ジホは 抱きつく恋人の身体を抱えて 大事そうに敷布へ横たえる。

なめらかな頬を片手で包み 髪をそっと梳いてやると
気持ち良さそうにため息をもらして スジョンは ジホの掌に頬をすりつけた。

 

奔放に甘えるスジョンの姿に ジホは うっとりと魅せられていた。

上流の婦人が 寝所でこれほど気ままに振舞うことは考えられない。
インスクは 姫様の結婚相手が ジホに決まった瞬間から
スジョンにあれこれ 「妻としての心得」を教えることを止めた。

嫁ぎ先に気を使う事はないのだから ひぃ様は 自由になさればいい

“全部 ジホに任せておけばいいんですよ”
・・そして ジホは寝屋の中で スジョンを甘やかせるだけ甘やかしていた。

 

 

・・・ジホ・・ぁ・・・ジホ・・・

「手を・・」

スジョンが猫のように鳴いて 切なげな手をジホへ伸ばした。

ジホは 大きく動きながら 宙に浮いた手を捕まえる。
小さな手に指を挿し入れてしっかり握ると 絹の上へ押しつけた。

・・・ジ・ホ・・

「大丈夫です。さぁ・・」
スジョンが甘い悲鳴を上げて 身体を弓なりに反りかえらせた。

ジホは愛しい痙攣を 限界いっぱいまで長引かせると
恍惚の崖を超えて落ちてゆくスジョンを 追いかけて自分を解き放った。

 

は・・・・・
気をつけないと そのうちこの人を 抱き壊してしまうかもしれない。

自制の気持ちが戻ってくると ジホは苦く反省した。

スジョンが房事に不慣れな頃は ジホも 細心の注意を払っていたが
近頃はつい欲望のままに スジョンを抱いてしまうことがある。

 

スジョンが 愛しくてたまらなかった。

手に入れることなど望むべくもなかった時も 想い続けた人だから
彼女を胸に抱くことは 信じられない幸せだった。

しなやかな腕でしがみつかれると 嬉しさで全身に震えが走った。

少しずつ快感を憶えはじめた人が 恍惚の表情を見せたりすると
スジョンを思うがままに抑えつけて どこまでも鳴かせてみたくなった。

今夜も 最後は夢中になりすぎて 手加減なしに突き上げたあげく

ほっそりとした身体が反り返るのを 折れる程 強く抱きしめた。
ジホは 困惑まじりの眼で 自分の下のスジョンを探った。

疲れ果てたように眼を閉じて 恋人は息を乱していた。

 

 

・・くぅ・・・

「?!」

鍛え上げた筋肉の下で 柔らかな肌がつぶれている。

慌ててすくいあげるようにスジョンを抱くと ジホは 2人の位置を入れ替えた。

 

スジョンは たくましい胸へうつ伏せて ぐったりもたれている。

火照って染まったなめらかな背中を さも愛しげに撫でおろしながら
今夜こそスジョンが怒り出すのではないかと ジホは 内心おののいていた。

 

・・ジ・・ホ・・・

「! ・・はい」

「お前は 遠慮しておるか?」
「え?」

少しは遠慮しろ と言われたのだろうか? ジホは 思わず赤面した。
高貴な人を がつがつと抱いてしまった自分を恥じた。

「・・・すみません・・」

「私は・・妻だぞ」
「はい」

「妻らしく扱われたい」

「・・・すみません」
欲しがる気持ちが強すぎて 粗暴になってしまったのかもしれない。

胸の上からにらむスジョンに ジホはおずおずとした眼を向けた。
「・・ともあれ 私を当主と呼ぶな」

「は?」
「妻とか 家内とか そういうのがいい」

「あの・・?」

ん~・・。  「やっぱり スジョンがいいな」

「何の・・話ですか?」
「私の呼び方だ。 以後は 是非そうしてくれ」 

・・・・は・・・・?・・
俺の抱き方が手荒だと 怒っておられた訳 ではないのか?

“当主”の呼称が嫌だから それを直せば許すということか?

「?」
ともあれ ジホに選択肢はなかった。

愛しいスジョンが是非といったら それは 逆らいようもないことなのだ。

 

——–

 
今日も今日とて わざとらしく 貴子は執務室前をうろついている。

ジホは 頬がひとりでに引きつってしまうのを抑えていた。

 

「これは貴子様。 ようこそ・・お越しくださいました」
「こんにちは♪」

「・・・・」

「・・・・」
私の許可など要らないのだから さっさと奥へ行ってくれたらいいのに。

しかし 貴子に言わなければ スジョンの機嫌を損なうのだろう。

 
・・・あ・・の・・・ 

「スジョン・・が・・奥で待っております」
「!!」

「どうぞ・・ごゆっくり」
ようやくそれだけ言ってしまうと ジホは フイと顔をそむけた。

白皙の頬が 染まるのを見て 貴子は飛び上がりそうだった。

 

 


15 Comments

  1. キャァキャァ\(^o^)/
    ポチッと遊びにきたらアップ発見!!
    フムフム、マイマイカブリ貴子ちゃんなのね。
    やっぱりいい味出してるわ。
    ジホにとってのちょっとかわいく厄介な天敵。
    スジョンの素直な心へとポチャンと小石を投げて波紋を楽しんでいくような。(^。^)y-.。o○
    手中の珠スジョンを寝所で甘やかすだけ甘やかしてるジホがほほえましくて。
    いつ怒り出すかとびくびくしてる姿も・・・・
    心配してたことと違って呼称への不満と分ってきょとんとしてそうな様子も。
    『スジョン・・が・・』とやっと言えたジホの様子を見られた貴子さん、いいもん見られたね~~!
    白皙が読めず、辞書で調べちゃった。ちょっと賢くなれたわ。ふふふ。

  2. ガンホ爺さんに続いて貴子さん!!の登場ですね。
    奥さんの立ち位置から、いろいろ教えてくれますねぇ。楽しいです。
    絶対君主のスジョンさんに、ジホはなーんも逆らえず、一つずつ
    不本意ながら叶えていってくれますね。
    貴子さん、これからも期待してますよ~ヘ(^o^)/

  3. マイマイカブリとはすごいミドルネームをつけられてしまいましたね、貴子さん。
    でも、天然スジョンとどうしても身分差を乗り越えられないジホには、貴重な友ですよね。
    ジホの「白皙の頬」を染めさせるなんてなかなかできることではありません。
    これからも大活躍を期待していますヨン。

  4. マイマイカブリの貴子さんですか?
    言いえて妙で、思わずうなづいてしまいました。
    ガンホ爺といい貴子さんといい、
    ジホの教育係(?)によって、ジホも段々ご亭主らしくなってますねぇ・・・。
    とはいえ
    >ジホが メロドラマの主人公よろしく スジョンへ甘く囁くシーンを
    何がなんでもこの眼で見たいと 激しく思っているのだった。
    ↑私も激しく見たいです。
    教育の成果が表れるのは甘色夜をどのくらい過ごしたあとでしょうか?
    でもジホって理解が早いからか、教え甲斐もあるようで・・・・

  5. んまぁ~~~なんて微笑ましいお話!
    思わずにんまりしてしまいました~~♪
    貴子さん いつもいいアシストだわ~!
    スジョンの教育係として最高ですわ!
    私もジホが恥ずかしそうにボソボソと『スジョン…』と言う声を聞きたい~~!
    貴子さん これからもよろしくね~~!
    ジホが困る姿を見たいの~~!

  6. さてさて、今回は天敵貴子様登場ですね^^
    ホントに愛すべき彼女はあんな事こんな事をスジョンに吹き込むものだから、ジホは困って固まるし、読み手のオバ様たちは大喜び!
    マイマイカブリとは凄いミドルネームですね^^
    その押しと食い込みの強さでオバ様たちの疑問を代弁してくれて・・
    こんなに頼もしい掘り下げ役はおりませんよ^^!
    寝屋での2人、ジホは本当にスジョンが愛しくて愛しくて・・
    なのね~
    でもかみ合わない会話に笑えます^^
    普段はなんでも自信満々なのに、ことスジョンに関しては
    自信なげにオロオロしたり顔色を窺うし・・・
    ボニさんはニヤニヤしながら書いているんでしょうね~^^!
    でもたまに読めない字が入るので、辞書辞書・・・

  7. ハイ。 私が にまにましながら ジホで遊んでいる書き手です。
    ●ぎゃんちゃん 早速ありがとう!
    UPのお知らせも回してくれたのかな。 ありがとう。
    貴子さん。 何たってロマンスに目がない。
    美形の親友夫婦が 大好物であります。
    ジホの動揺が 衝撃的に良かったので またやってやると
    決心してます。 困った天敵ちゃんですね。
    ●yuusai さん いらっしゃ~い!
    ホントにジホ スジョンにはめちゃめちゃ弱いですね。
    さりげなく無理して紅茶手に入れてるし(^^;)
    絶対君主の忠臣ですが まあ 幸せだからいいよね?
    ●yuchekkoさん マイマイカブリ貴子 強烈です。
    不器用で照れ屋のジホも ガブガブ喰われてます。
    だって~ジホさんハンサムなのに~絶対晶さんぞっこんなのに~
    澄ましてイルンダモン。つまんないって思ってました。
    まあ 仰るとおり この2人にはいい刺激です。
    ●swimmamaさん お楽しみいただけましたか。
    そーです。 2人にはおせっかいな教育係がいっぱい。
    >何がなんでもこの眼で見たいと 激しく思っているのだった。
    ↑私も激しく見たいです。
    ↑私もです。(笑)
    ●ruriさん ジホのぼそぼそという「スジョン」妄想するだにイイです~。あ~聞きたい。
    なんのかんのと言いつつ 微笑ましくも幸せな2人と
    もうちょっとお付合いください。
    ●hiroさん そうです「書き手」のオバサマもにまにまです。
    彼の国の歴史が動乱続きで 本編じゃこういう他愛ない
    甘いシーンがかけなかったんだも~ん。
    >寝屋での2人、ジホは本当にスジョンが愛しくて愛しくて・・
    >なのね~
    です。
    姫様と呼んでいた頃は 父兄代わりに厳しいことも言いましたが
    自分の妻になっちゃったら スジョンが何をしようが
    自分が護れば 彼女には傷がつかないもんだから
    もう 安心して愛妻にしちゃってます。

  8. お知らせもらったのに、今朝になっちゃいました^^;
    第3話のタイトルは『天敵』だとばかり思ってました・・・
    またまた^^;
    ロマンス大好きな貴子さん。
    考えたら、貴子さんがスジョンにけしかけた(?)から、
    ジホとの結婚があったんですよね。
    ということは、ジホの「天敵」ではなく、
    「天使」かもしれないのに・・・♪
    主語を聞けて喜ぶ貴子さんがかわいいわ~!
    第ヨン話のタイトルの二文字を想像しながら
    楽しみに待ってまーす!

  9. きゃあ!更新されてる~!!うれし~!!お待ち申し上げておりましたよ。
    ボニボニさんの書かれるお話は読むと幸せになれるお話ばかりなので、新作が読めてとても嬉しいです。今回も甘々で、幸せです~♪
    ジホはイ家三代の男性の中では一番感情表現が小さい方なので、彼の心の中を知るのはとても面白いですね。
    次回の更新を楽しみにしています。

  10. あ、お客様が来てる~♪ らっさい、らっさい!
    ●なここちゃん 私も天敵にしようかな~と思ったんだけど
    でも 天敵っていないと生態系が壊れてしまうんだって。
    そう考えると ジホの最大の天敵ってスジョンですね。
    第一話は ジホが逡巡して 次はガンホが指南していました。
    この三話で揺動しているのは貴子。
    次は誰が何をするでしょう。 うふふ・・
    ●ぺえたさん いらっしゃい!
    お話を読むと幸せになると言われるのが 一番 嬉しいです。
    甘い物でちょっと幸せになって ご機嫌よくお過ごしください。
    >ジホはイ家三代の男性の中では一番感情表現が小さい方なので、
    そうなんですよねえ・・。 
    行動を見ていると 大泥棒だったり ならず者と斬りあったり
    誰よりも過激な狼なんですけど 感情表現は苦手で無骨・・・
    ま そこがカッコイイってこともありますが。

  11. キャ~♪又、ジホがイジラレていますぅ~~~(^m^)
    それにしても・・・
    >“全部 ジホに任せておけばいいんですよ”
    ・・・って・・・インスクの言うことだけ聞いていたら、
    どんなに堅苦しい夫婦になっていたかしらね・・・?
    ガンホ爺にも、貴子様にも感謝だわ~~~
    私もスジョンの所に行って一言、言いたいわ!
    「普通の奥様は、旦那様に命令形で話したりはなさいません」って・・・
    スジョンに敬語で話しかけられて、
    目を丸くするジホが見てみたいんですもの~~~(^m^)

  12. ★(^^)nyankoさん いらっしゃ~い!!
    >・・・って・・・インスクの言うことだけ聞いていたら、
    >どんなに堅苦しい夫婦になっていたかしらね・・・?
    そうですねえ。 なーんも知らないスジョンと
    姫様にめったなことは出来ないジホじゃあ・・・
    でも その分 周りにおせっかいがいて(^m^))
    ジホ いじられてますが 気持ちいいに違いない。

  13. またまた出遅れました^^;
     いやあ^^~ジホ やられっぱなしですね(^_-)-☆
     ガンホ爺といい、この貴子女史といい 
     二人とも、ほんっといいキャラしてますね^^v
     この、夜話シリーズ、
     ジホがいかにスジョンにメロメロかという証明を
     余すことなくみせてもらっちゃってるって感じで
     大いに楽しませて頂いてます
     むふふふ♪・・・です^^v
     ボニさん、ありがとうございます
     まだ、続きますよね?
     チェックを忘れないようにしなくては・・・

  14. どうあがいてもスジョンにはなれない私としては、せめて貴子さん役
    ならできるかしら?・・・なーんて妄想に浸ったりして(笑)
    んふふ・・・ジホのメロメロ具合には笑っちゃいます~。
    ジホの天敵はスジョン?
    んーそうですか、いないとダメな存在が天敵なら、確かにそう言えるかも。
    仕事が終わって、夕飯食べて、ほんのちょこっとアルコールをたしなみつつ
    夜話を読む・・・あ~幸せ♪
    ボニさん、ありがとー☆

  15. ふふふ 夜話にお越しの方がまた♪
    ●kilala0517さん いらっしゃ~い!
    そうです。 本編ではカッコよく水晶を護りきった狼ですが
    ホントは 手に入れちゃった宝石スジョンに メロメロで
    困っちゃうのでした。
    時代もクソもなく書けて楽しい甘エロ話は もうちょっと続きます。
    ●ふふ ほろ酔いのまいぺんた姫 いらっさ~い♪
    妄想するのはただですから 貴子といわず
    どーんと(?) スジョンで行っちゃってください!
    >仕事が終わって、夕飯食べて、ほんのちょこっとアルコールをたしなみつつ
    いいですね~。 そうしてお楽しみいただけるのは嬉しいです。

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