35 水晶妃-氷と狼の物語-第35話

 

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「・・・撤退したか」


朝鮮北部からソ連軍が退いたという報せに ジホは眉を曇らせた。

間もなく アメリカもこの南部から軍政を解いて去るだろう。 ・そして
2大軍事勢力が直接対決を避けた時 半島に 本当の動乱が始まる。

 

狼は 虚空を凝視した。 

それは 草むらに身を忍ばせる獣が 風に混じる嵐の気配を 
嗅ぎ取ろうでもするような 慎重さに満ちた姿だった。


ソウルは あまりにも北に近い。 

南北が この半島の覇権を巡って争う時が本当に来るのなら
水晶をどこか他の安全な土地へ 疎開させることも考えなければ。

移るとしたら 水原か 思い切って釜山へ・・・

 


「?」

人の気配を感じ取って ジホの集中が途切れた。

怪訝な視線を戸口へ向けると 開け放した執務室のドアの陰から
貴子が きょろきょろと覗いていた。


「貴子様。お越しでしたか」

「ええ 今日はお祝いに。 ご結婚おめでとうございます♪」
「!」
「ふふ」

「・・・ありがとうございます」


ほんの一瞬 たじろいだ後 貴子の期待を裏切って 
ジホは ゆっくり眼を伏せると 落ち着き払って挨拶を返した。

「多分 部屋にいると思います」


——-

 

ソウル中の話題となった結婚式から 約半月。

新しい生活を始めたスジョンのもとへ 貴子がいそいそとやってきた。

 

“部屋にいると思います”って 「主語」がないじゃないのよ ねえ!

「鬼軍曹‥じゃないご主人は 晶さんを何とお呼びになるの?」

「前と変わらぬな。 仕事の用向きの時は “当主”と呼ぶと決めているらしい」
「まぁ、ご自分の奥様なのに?」
「・・使用人に私の事を聞くときは “奥様はどうした”などと言うておる」

 

それじゃあ 執事の頃と変わらないじゃないの。 もぉ・・よそよそしいんだから。
自分のことでもないというのに 貴子は口を尖らせた。

「いや 変わったぞ。 寝屋では私を名前で呼ぶ」
「!!」
「たいそう甘い声だ。 私は あれを聞くのが好きだな」

・・き・・・きゃぁぁ・・・

 

にっこり。 平然と笑んだ美しい親友に 貴子はぽかんと口を開けた。

晶さんったら 大胆なことを日常会話みたいに言うんだから。
まあ あわよくば2人のお熱い話でも 聞き出せるかと思ってはいたけど・・


「晶さん。ジ、ジホさんって あのぉ。お床ではどんな風でらっしゃるの?」
「どんなとは?」
「その・・情熱的に求めてこられるほう?」

・・・きゃぁぁ・・

「子作りのことか? ジホは 私が言わぬ限り手を出さない」
「まあ?! じゃあ・・あまり・・その・・・営みはなさらないってこと?」


スジョンは 驚いたように眉を上げた。

「他人の子作りは知らぬからな。 普通は違うのか?」

——-

 

夜更けて寝屋の戸を開けたジホは 夜具の中のスジョンを見てがっかりした。

仕事に手間取ってしまったせいで 先に休んでしまわれたな。


今夜は 彼女を抱くことを諦めなければいけない。

静かに寝台へ滑りこみながら ジホはうずきを抑えていた。
いつもだったら 姫様の方から 可愛らしく誘ってくれるのに。

“・・ジホ・・・”

 

頭の後で手を組んで ジホは天井を見つめていた。
結婚以来 隣に眠る柔らかな身体を抱けない夜は初めてだった。

背中を向けた水晶に 腕枕をしたら起こしてしまうだろうか。

愛しい肌が恋しくて ジホは 歯噛みしそうだった。

 

「・・・・」

せめて 背中を抱いて寝よう。 

ジホがスジョンへ向き直ると同時に 小さな背中が寝返りを打った。
眼を丸くしたジホをにらんで スジョンは 猛烈にむくれていた。


「お休みではなかったのですか?」

「・・・」

「どうしてそんな顔を・・、あぁ、起こしてしまいましたか?」
「ジホは・・、私と添いとうなかったか?」
「?」
「私が結婚を望んだから お前は 仕方なく従ったのかっ?!」
「は?」


キッとにらんだ氷の瞳が 見る見るうちに潤んでいった。

愛しい宝石のかんしゃくを ジホは呆然と見つめていた。


「どうなさいました?」

「・・・」
「スジョン?」

・・新婚の夫と言うものは 妻が愛しゅうて 一夜に幾つも抱くものだそうだ。
「?!」

「子作りは 一夜に2度しても双子にならぬのだ」
「・・双子になると 思っていたのですか?」
「・・・・」

 

は・・・

貴子様か。 ジホは 瞬時に事情を理解した。
まったく若い奥様がたが 何を 話しているかと思えば。


「普通は 妻から誘うものではないそうだ」

「・・スジョン?」

「知らぬ」
「私が 貴女を嫌々妻にしたとお思いですか?」
「知らぬ!」


そっぽを向いてもふくれた頬の丸みが 朱く染まっていた。

一日中 きなくさい状況への対応に 張りつめていた狼は
自分が護る宝石の 可愛らしい怒りに微笑んだ。

それでは 今夜はお言葉に甘えて 存分に抱かせていただくか。

 

「私は 貴女の気の向かない時は したくないと思っておりました」

「・・・・」
「貴女はまだ こういう事に慣れておりませんでしょう?」
「・・・・」

ジホは スジョンの夜着の留めを ゆっくり解きながら囁いた。
スジョンがその手を払おうとすると 力強い手が手首をつかんだ。


「つ・・・」
「じっとしていらっしゃい」

貴女を愛しく想わないから 私が 抱かなかったとお思いですか?
「・・・・」

「今夜は 愛しく想う分だけ貴女を抱いて差し上げましょう」


——-

 

「・・・・ぁ・・・・」

 

・・・貴子・・貴子・・・本当はな・・・
   
         ・・・・ジホは・・情熱的みたいだ・・・・


もう何度目かの忘我の中で スジョンは親友へ語りかけた。
ジホは床にあぐらをかいて 華奢な身体を抱き寄せた。

両腕に抱えた白い胴を ゆっくりと腿へ下してゆく。

猛々しくジホに貫かれて スジョンは あえいで背を反らした。

 

・・ジホ・・・も・・ぅ・・・

「身体に力が入りませんか? 私の首へ 腕をまわされるといい」

言うなり男の強い手が スジョンの尻をわしづかみにする。
深々と奥まで貫いたまま ジホは 恋人を揺らし始めた。

「・・・あ・ぁ・・あ・・・!・・」


・・ジ・・ホ・・・・やぁ・・・

「スジョン?」

・・・ぅ・・・・あ・・


「私は・・下賤の出です・・から・・貴女よりずっと・・・貪欲です」
「・・・ぁ・・」
「想うがままに・・貴女を抱いたら・・・ほら・・大変でしょう?」


上りつめたスジョンが絹の声で鳴き 朱に染まった肢体が波打った。

ジホはしっかり恋人を抱えて 容赦なく絶頂まで追い詰めた。
柔らかな筋肉の痙攣が もうこれ以上は続かなくなると

ジホはそのまま身体を起こして スジョンを敷布に組み敷いた。

 

「・・・ジ・・ホ・・・?・・なにを・・・」

「スジョン?」
「・・・ぅ・・ん・・」
「明日は お身体が痛んで起きられないかもしれません」
「!!」

「インスクには 起こさないように言っておきます」

「なっ・・・」


ジホはスジョンの脚をたたむと 膝頭を左右に大きく分けた。
泳ぐようにかぶさる大きな背中に スジョンの悲鳴が呑まれていった。

——-

 

「ねえねえその後 ご主人は 少しは積極的になられた?」

うふんとしなを作りながら 貴子は期待に膨らんでいた。
スジョンは 冷たい眼差しを女友達に投げつけた。


「ジホは 私が言わぬ限り手を出さない」

「まあ・・どうしてかなあ? ジホさんは絶対 晶さんにご執心だと思うんだけど」

「私がそうするように言った」
「え?」
「身体がもたん」

「・・・え?」

 


もう数日も経つというのに まだ身体がふらつくような気がする。

あれでは子作りする前に 私が壊れてしまうではないか。


まったく えらい眼にあった。 スジョンはむっつりと腿を撫でた。

 

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