45パフ ー僕の風を追いかけてー

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「結婚許可証が期限失効したって・・。 お前はいったい 何を考えているの?!」

「・・・」

 

マダム・シンは 珍しく激した声を張り上げた。

久しぶりにソウルの自宅へ戻ったジェイを マダムの怒りが待っていた。
ジェイはソファに沈んだまま 仕事の資料から眼も上げない。


「まさか パフィーとの結婚を 取りやめにする気じゃないでしょうね?!
 冗談じゃないわよ! そんなことは 私が絶対許・・!」
「結婚はします。 やめる気は毛頭ない」

 

ぁ・・あら、そう?   

「じゃあ 何だって期限失効なんかになったの?」
「長期休暇を取ったせいで 諸準備が手間取ってしまったんです」
「嘘をおっしゃい」

「・・・」

「お前の周りに控えている秘書さん達は スーパーマンみたいに優秀じゃない。
その気になれば 明日までに大統領演説の準備だって整えるくせに!」
「・・・」

 

どうやらジェイは 部屋へ押しかけて来た祖母にソファを勧める気はないらしい。

マダムは 自分が簡単に退く気がないと言う意思表示に
ジェイが座っているソファの真正面へ これみよがしに腰をおろした。


ジェイが 苦笑まじりの眼をあげた。

孫に嫁を迎えることを生きがいとしているマダム・シンは 
オーストラリアでやきもきと数カ月を過ごし 今ソウルで ジェイを捕まえたのだ。 

 


「まあ・・。 お前がパフィーさんと結婚する気でいることは疑わないわ」

ワーカホリックで鳴らしたお前が シドニーに長々と滞在して 
婚約者同伴であちこちのレセプションに 顔を出したりしたんですもの。


マダムは パーティー会場で見た孫の姿を思い出して微笑んだ。

見惚れるばかりに端麗なジェイに 可愛らしいパフィーが寄り添う姿。
何よりもパフィーを見つめるジェイの 愛しげなまなざしが嬉しかった。 

 

「お前が挙式をグズグズするのには きっと 理由があるのよね」
「!」

「サムウォンに 会いたくないのでしょう?」
「・・Father?」
「“アボジ”よ、韓国語ではね。 そう あなたの父親」

「・・・」


挙式となれば 花婿の父がいない訳にはいかないもの。
会って 何か言われるのが気に食わなくて お前は渋っているのでしょうよ。

マダムはやれやれと言わんばかりに そっぽを向いて鼻を鳴らした。

お前ときたら たとえ相手が父親であろうと 頭を下げるのは嫌なんだから。

 


「今のままでも パフィーとは夫婦みたいにしていられるものね!」

「・・・」


だけど そんなけじめのない事はだめよ。

「華やかな結婚式に憧れない女性なんているわけないでしょ? あなたも男なら
婚約者に とびきりのウェディングドレスを着せてあげなくちゃ」
「・・・」
「あの娘の花嫁姿 きれいだと思うわ。 想像するだけでうっとりしちゃう」
「・・・」

「ちょっと? 聞いているのジェイ!」

「・・・」

 


聞いているの? だとグラン・マ?  ジェイは心の中で歯噛みした。

まさにその 憧れの結婚式とやらが 最大の問題なんじゃないか。

 


パフの全部を。 心までを 欲しいと思った瞬間から

ジェイは パフとの結婚式を躊躇せずにはいられなくなった。


パフは ジェイと結婚する。 その事は彼女も「納得」しているし
仲のいい夫婦になる為に「努力」しようとも 思っているのだ。


だけど パフは嘘がつけない。

挙式となれば祭壇で 神の前で 誓うことになる。
“貴女は生涯 夫としてジェイク・シンを愛しますか?”

その時 パフが一瞬たじろぎ 口元が嘘のために歪むことがあったら・・。


“僕は 祭壇の前で妻を手に入れ 同時にパフを失なってしまう”

 


「・・・」

「ジェイ?」
「・・・」

「脅かすつもりじゃないけれど。 お前がそんな風でいるから 中にはその
いろいろと邪推で噂する人もいるのよ。 ・・知っているの?」

「他人の言うことなど 気にする必要もないでしょう」
「じゃあこれは? “ジェイク・シンは チャン・リー財閥の閨閥主義をあざ笑う為に
 彼の孫娘と婚約しておいて 捨てるつもりでいるらしい”」
「馬鹿な!」

「・・という噂」

「!」

 

お前はいいわよ 気にしなければ。  「でも パフィーさんはどうかしら?」

「・・・」

「もっと悪いのは コン・チャン・リーが噂を本気にすることね。
彼がそんな噂を信じたら 彼女との結婚を破談にすると言い出しかねないわ」
「パフは僕のものだ」

「ジェイ? あの娘は 誰のものでもないわ」

 

資料をテーブルに叩きつけて ジェイは部屋から出て行った。

向かいのソファに取り残されたマダムは ぎこちなく もろく微笑んだ。
身勝手な両親に起き去られて凍ったあの子が 溶けていく。

「パフは僕のものだ」ですって? なんという眼をして言うのかしら。


「あぁ お願い神様! パフィーさんがジェイを愛してくれますように」


——-

 

「どうして忙しいこの僕が いつも君を探し回らなきゃいけないんだ!」


ビデオチャットの画面の中で ジェイはかんかんに怒っている。

パフはきょとんと眼を丸くして 怒るジェイの顔を見つめた。

 

「コールしてたの? ごめんなさい。 今日はハーバーに来ていたから」

「そうだろうな! 君はいつもハーバーにいる!」

「・・何を怒っているの?」
「別に何も! いったい君は いつソウルへ来るつもりだ!」
「え? 春節は来週じゃなかった? 週末にはこちらを発つつもりだったけれど」

「・・・」

 

手のひらの小さな画面の中で パフが小首をかしげている。
パフの後ろにはホバートの空が せいせいと青く広がっている。

画面のパフを見つめるうちに ジェイの眼もとがひくひくと痙攣した。

 

・・バーニー? お前は大笑いするだろうな。

僕は パフが欲しいあまりに 優しい言葉のひとつも言えない。
彼女の前では 怒ったような口をきくのが精一杯なんだ。


「・・・」

「・・・」


黙り込んだジェイの顔を パフは じっと見つめていた。
傲慢さと不機嫌の向こう側で さざ波のような寂しさが揺れる。

パフには ジェイの居丈高さが 何だか強がりのように見えた。

冷たくうつむくジェイが ひそかに扉を閉めかけているような気がした。

 

「ジェイ!」

「・・・」


「あの・・!ジェイ。 私 もっと早くそちらへ行くわ!」

「?

「この前カウンター係をお願いした人に また 仕事を代わってもらわなきゃだけど」
「・・・」

「あの ジェイから頼んでもらえる?」
「あぁ」
「ありがとう」
「ん」


「それじゃあ またすぐに」

「・・ぁあ」

 

パフは 終了ボタンをタップした。 多分 これで良かったのよね?

何だかあのまま ジェイに扉を閉めさせちゃいけない気がしたんだもの。

 


「まったく。 お前の金持ち旦那は どうしようもないな!」


きゃっ!!

「もぉ ピーター! 立ち聞きしてたのね!」
「人聞きの悪いことを言うなよ」

パフの後ろからモバイルを覗き込みながらピーターが言った。
お前が誰かに怒鳴られているみたいだから 心配して聞き耳を立てたんじゃないか。

 

「しかし あいつもガキ丸出しだな。 どんだけお前にメロメロなんだか」

「ぇ?」

「やっとこシドニーから帰りやがったと思えば もうお前が恋しくなって。
 あんな風で でかい会社の舵取りなんか出来るのかね?」
「ジェイが私を? 嘘よ。 彼ったら 怒鳴りまくっていたじゃない」
「お前に会えないもんだからカンシャク起こしてんのさ。お前だってわかったろ?」
「・・・」

「お前が早く行くと言ったら いきなり「あぁ」だと?嬉しそうによ」

「・・・」

 

ぐわー! いい歳をしてジェイの奴 甘酸っぱいじゃねえか おい!

ピーターは独りで盛り上がって ガチャガチャと工具を片づけた。


「いいよなぁ恋は。 なんたって 始まりの不安定さがキュンと来るんだ」

「こ・ぃ・・?」
「あ? おい! 俺がそう言ってたと 家の奴に言ったりするんじゃないぞ!
  もちろん俺は カーム(風のないなめらかな水面)な家庭に満足している!」

 

まあな。 奴のメロメロぶりを見れば 俺様もひと安心というもんだ。

エヘン! とピーターは咳払いをして 工具をまとめて立ち去ってゆく。


パフは ぼんやりまばたきをしながら
また少し体重を増やしたらしい 大好きな友の背中を見送った。

 

「ジェイが? 私に・・恋してる?」


 

10 Comments

  1. そう、パフ! やっと気づいてくれたの!?
    ジェイは、幼くて、ぎこちない表現しか出来ないけれど・・・。
    >恋は 始まりの不安定さがキュンと来るんだ
    ピーター うまいこと 言うよね~
    ナイス アシスト!!

  2. ジェイ、結婚式がゴールじゃないのよ。
    もちろん、生涯あなたを愛しますってお互いに言えたら最高だけど、結婚してから紡げる愛もあるから、、、、って、もう十分愛し合ってると思うんだけどね ククク。
    マダムとピーターがいいアシストしてますね。
    《「パフは僕のものだ」ですって? なんという眼をして言うのかしら。》 あ~ぁ 彼の眼にとろけそう。。。(すっかり脳内変換してます!)

  3. ジェイとパフは すでにラブラブと思い込んでいるピーターの言葉で
    「ジェイが私を?」になったパフ。
    さて どうなるでしょう(^^)
    ●いらっしゃーいyuusaiさん。 やっとパフ「?!」です。
    最初に結婚が決まっちゃったから まさか相手の 傲慢な男が
    自分に「♡」なんて思っていなかったパフ。
    でも 自分を好きと言う男の子を 意識しないでいられる女子は・・いないですよね。
    ふふふ 甘酸っぱいぜ。
    >ピーター うまいこと 言うよね~
    >ナイス アシスト!!
    これでピーター ロマンチストですからね(^^//)

    ●いつもありがとう!nktotoro8さん! ジェイったら 結構ビビりでしょ?
    >ジェイ、結婚式がゴールじゃないのよ。
    >もちろん、生涯あなたを愛しますってお互いに言えたら最高だけど、結婚してから紡げる愛もあるから、、、、って、
    ホントホント。
    そうなんですけどね。
    初めて恋したパフのことが 大事で仕方ないジェイは
    ガラスの心の少年クンなもんで パフが「愛しますか?」に戸惑ったら
    パリンと割れそうなくらいなんです。
    チュンサンは自信がなくて・・・私を好きとも言えなかったんです。
    ジェイもです。
    >もう十分愛し合ってると思うんだけどね ククク。
    すでにベッドインしてますしね(ーー;)
    どんな純愛なんだか・・

  4. ジェイは、嘘をつけないパフに嘘を言わせたくない。
    神様の前で心から誓って欲しいんですね。
    ジェイはもう心からパフを愛してるのに、自覚できてないし。
    相手の全部が欲しいなら、先に自分の全部を差し出さなきゃね。
    ジェイにそれができるかな。
    今回もピーターはグッジョブです。
    先に結婚ありきで始まった不器用な二人の恋を、縁の下の力持ちで手助けしてあげてね。
    遅ればせながら、アルファポリスの恋愛小説大賞の「パフ」に投票してきました。
    たくさんの人に、ボニさんのお話を読んでもらいたいです。

  5. もうジェイったら・・・パフに対してどれだけ臆病なの~?
    あんなに自信家のくせにパフの一言一言に気持ちが揺らいで・・・
    あまりに「ガラスの少年」であの理事と重なって切ない(;;)
    ピーターとおばあ様のアシストがないとこじれて行きそうで
    ハラハラします^^;
    でもパフはジェイの言葉の裏に隠れる寂しさを見つけてくれて、
    ホッとしました。ジェイの恋心も分かってね~~!
    祭壇の前で心底お互いへの愛を誓えるまでには
    まだ一山も二山もありそうですが、
    ボニさん、信じてついて行きます!!!!!

  6. ボニ様
    「いいよなぁ恋は。 なんたって 始まりの不安定さがキュン と来るんだ」ピーターのつぶやきに ハッとしたパフ・・・
    どれだけ恋されちゃってるのって!!わかんないよねーー
    当事者は@@@
     
    そうかソウルで、ホバートのパフが気になってしょうがないんだね 「私もっと早くそちらへ行くわ」その一言で 生き返ったジェイですね。
    結婚式あげるまでがいろいろありそうだけど。。。二人の想いがまっすぐにつながれば 妻でなくパフを手に入れられますね
    ああ~~離れてるとろくなこと考えないから^^早く会いに行って~~~~

  7. おつきあいどうもありがとうございます!
    ●yuchekkoさん そーなんです。 ジェイはパフに
    嘘の誓いを言われたら 失恋しちゃう気がしてる。
    >相手の全部が欲しいなら、先に自分の全部を差し出さなきゃね。
    >ジェイにそれができるかな。
    そうなんです。
    パフのパパがやったみたいに「君が好きだ」と言えたらいいのに。ダイヤのブレスレットなんか贈ってみては
    違ったんだな・・なんて。 このバカモノー!
    アルファポリスの投票 ありがとうございました!!! 嬉しいです。
    あれに出すとしばらくして「初めて読んだけどジュニ(とかジホ)が好き」とか
    書いてくれる拍手が入ったりして すごく嬉しいんです。
    そういう人の中で 主人公達がまた息をしてくれる気がします。ありがとう!

    ●hiro305 さん ジェイってば臆病でしょ?
    強気で生きることしか知らなかったので 素直になれない。
    >あんなに自信家のくせにパフの一言一言に気持ちが揺らいで・・・
    >あまりに「ガラスの少年」であの理事と重なって切ない(;;)
    はいー。 モデルですからー(^^)
    おまけに 理事より内気で自分だ出せないときたもんだ。困ったもんです。

    >ピーターとおばあ様のアシストがないとこじれて行きそうで
    ハラハラします^^;
    こじれそうですよねえ・・・見守ってくださいまし。

    ●bannbiしゃん パフもまあ 鈍いですよね。
    >当事者は@@@
    ジェイがまた 「僕は別に 君でいいから」かなんか言うからねえ。
    猫みたいにゴロゴロ抱きつくジェイだから
    自分は気に入られているのだろうな とは解っていても
    まさか相手が 自分にドキドキの恋をしているとは思ってなかったみたいです。
    >「私もっと早くそちらへ行くわ」その一言で 生き返ったジェイですね。
    はい。
    がみがみ怒っているジェイの中に 寂しさがあるような気がして
    思わず手を伸ばしちゃったパフ。
    ジェイとしては そむけたほっぺにチューされたみたいに嬉しかったそうです。 そのくせ「ああ」しか言わないんだからコイツは!
    >二人の想いがまっすぐにつながれば 妻でなくパフを手に入れられますね
    そこまで どうぞこのジェイをお見捨てなくおつきあいください。

  8. ボニちゃんこんばんは。
    節分、立春と過ぎて、九州では春一番が吹いたそうな。
    春はすぐそこ!
    王子、早く動き出して!
    (ハワイでのんびりコーヒーの淹れ方修行中?^^;)
    多分好かれてはいると思う、嫌われては居ないはず・・・
    仕事では一瞬の迷いもないのに。
    パフのこととなると迷ってばかりだよ。
    神の前での誓いが嘘に思えてしまうのね。
    パフも!好かれてる居るだろうけど、恋?
    まさか~ってな具合。
    でも、プレゼントにお母さんの家、パフの仲間とのやり取り。
    思い当たる節はいくらでも。
    お互いが一歩づつ近寄らないと・・・(冬ソナ❤)
    私も投票のポチしてきました。頑張れ!

  9. あ”~~~~ばながでどう(ハナが出るぅ)
    なんか ボニボニ風邪を引いたみたいでづ。
    ●yonyonちゃん いらっしゃーい! ポチしてくれてありがとう!
    もう九州では春一番かー。時の流れは速い。
    すぐ会える日がやってくるわねえ。
    その前の ポゴシプルルの歌が発売か 買わなきゃだわ。
    >王子、早く動き出して!
    >(ハワイでのんびりコーヒーの淹れ方修行中?^^;)
    コーヒーよりワインより 俳優やってる方がいい味出す人なんだけどねえ(--)
    >仕事では一瞬の迷いもないのに。
    >パフのこととなると迷ってばかりだよ。
    >パフも!好かれてる居るだろうけど、恋?
    >まさか~ってな具合。
    はたから見てると「いや 君たちミエミエだから」という相愛ぶりなのに もたもたしている2人っていますね。
    ダメだったら立ち直れないかも・・の気持ちが 臆病にしてしまうジェイなのでした。
    >お互いが一歩づつ近寄らないと・・・(冬ソナ❤)
    チュンサンならぬジェイが 「ほら」と手を出せる日は来るか?

  10. ジェイはパフのことになると本当に臆病な少年。
    ジェイの恋心はガラスどころではなく
    スイーツのデコレーションの飴細工のよう。
    チュンサンだって手を差し出せたのですから、ジェイも頑張って!
    そのためにはパフの導きが必要かな。
    でもパフもジェイの閉ざされた寂しい心に気づいても
    パフを恋い焦がれる熱い想いにはまだ気づいてないのですね。
    「ラブラブな二人」ってわかっていないのは本人たちだけ。
    じれったくもあり、微笑ましくもあります。
    このお話を読んでいると
    小春日和の穏やかな陽ざしに包まれているような
    ふんわりとした幸せ感に浸れます (^’^)

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