08パフ ー僕の風を追いかけてー

 

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珍しい生き物でも見たように パフは大きくまばたきをした。

「え・・?」

 

どうしてこんな事になったのだ?  ジェイは うんざり息を吐いた。 

自分がこれほど情けないプロポーズをする破目になるとは 思わなかった。

 

ビジネス上の魂胆があって 結婚を考えたジェイだけれど
パフには ロマンティックな誘惑をしてやるつもりだったのだ。

やむをえない。 パフを手に入れるつもりなら 事を急ぐ必要がある。

こうしている間にもコン・チャン・リーは 彼女の相手を決めかねないのだ。

 

 

「自分で言うのも 何だけれど」

つまり・・ 客観的な事実として。 


「コン・チャン・リーにとって おそらく僕は 『閨閥』に加えたい人間のはずだ」

「はぁ・・・、え?」
「そして僕は 諸般の事情から チャン・リー財閥の係累に繋がることを・・
 検討してもいいと 考えている」
「!」


「・・・」

「それって・・・ ぁのぅ・・」

 


ジェイは ゆっくりうなづいた。 

ぽかんと口を開けていたパフが みるみる赤く頬を染めた。


「私・・その。 自分で決められることじゃないから・・・」
「それは もう聞いた。 君は コン・チャン・リーが決めるなら 相手が誰でも
 "たとえ僕でも" 『契約』を果たすために結婚する気なのだろう?」
「・・・そ・・」

 

"検討している" と僕は言ったが  君の「雇い主」は 狡猾な男だからな。

「こちらから話を申し入れて 奴に足元を見られるつもりはない。
 君からの報告事項として 僕がアプローチしたことを奴に伝えてもらいたい」


「・・・」

「どうした?」
「・・・本当に・・」
「?」

「本当に 貴方のような人達って。 商談みたいに結婚の話をするんですね」

「・・・」

 


伝えます。  パフは不慣れな秘書のように 乾いた小さな声で答えた。

ジェイの目元がわずかに歪んだ。 奇妙な後めたさが胸を刺した。

いきいきと 素直な言葉で隣人とのギヴ&テイクを語っていた彼女が
最初に会った時と同じ よそよそしい口調に戻っていることも腹立たしかった。


「パフ?」

「パフィー・・です」

「・・・。 パーティーは木曜の夜だ」
「・・・」
「君を 一緒に連れて行きたい」

「・・・」


祖父に聞いてから お返事します。 頼りなげに パフがうつむいた。


——–

 


「・・ジェイク・シンから 誘われただとっ?!」

「!」

ビデオ・チャットの画面の中で コン・チャン・リーが咆哮した。
彼が見せた驚愕は パフが予想した反応をはるかに超える激しさだった。 

 

彼女の祖父であるコン・チャン・リーは 尊大きわまりない男だ。

着慣れた服のように倣岸さをまとい 常に沼のように静まっている。

何に対しても興味なさげに半分閉じている彼の眼が 今は 全開になっていた。
パフは 祖父の慌てふためく姿を初めて眼にして驚いた。


・・Mr.シンは コン・チャン・リーをこれほど驚かすような人なの?

 


「えぇ あの」 

木曜の夜に シドニーで開かれるパーティーへ一緒に行こうと言われて。


「本当に ジェイク・シンなのか? "帝王"ボス・ジェイ?」
「わ・・かりません。 本人が僕はジェイク・シンだと 自己紹介を」

「第一 どうやって奴と知り合った?!」

「どうって・・。ソウルの春節パーティーで 彼のお祖母様とお知り合いになって
 マダムから"オーストラリアへ遊びに来たから会わないか"と誘われたんです」
「おお マダム・シンか!」

 

なるほど。 冷血と思っていたが 奴も一応コリアンらしく忠孝には弱いらしい。
コン・チャン・リーは 舌なめずりでもしそうな顔でにんまり笑んだ。

「パーティーは・・木曜日だと言ったな?」

誰か! シドニーの最高級ホテルで木曜に開かれるパーティーを片っ端から調べろ。
ビデオチャットの画面の中に 余裕なく部下を怒鳴る声が響く。

モニターのこちらで待っているパフは 完全に置き去りにされていた。

・・あの人 大物なのね。  「確かに 王様みたいだったもの」

 

 

「アジアパンパシフィック・フェローシップミートのレセプションだな」

やっと 孫娘を思い出したらしいコン・チャン・リーが 上機嫌で言った。
在豪の大物がごっそり出るパーティーだ。 ここへ誘うとは 脈があるぞ。 

 

「明日にでも『デイビッド・ジョーンズ』へ出かけて 着ていくドレスを選ぶんだ。
 コンシェルジェには秘書から指示しておくから 最高の物を揃えるようにな」

「あの・・。  じゃあパーティーへは 行きますと返事をするのですか?」

「何だと? まだ返事をしていないのかっ?!」
「誰かに誘われたら "家の者に聞いてから"と 答えるように貴方が言いました」
「それは普通の場合だろう。 相手は あのジェイクなんだぞ!」

「・・私は 知りません」

「口ごたえするな!」

 

とにかくすぐ奴に連絡をして 喜んで行くと返事をしろ。

「気難しい奴だから機嫌を損ねないように くれぐれも注意するんだぞ」


叩きつけるように言うだけ言うと ビデオチャットが一方的に切れた。
パフは ビューアの消えたモニターをしばらく見つめた後で ため息をついた。

「イエス ボス。 ・・おおせのとおりに」


———

 


ボスの機嫌が良さそうなので バーニーは夢心地だった。


タスマニアは今日もきれいに晴れて なだらかに続く丘には牛が草をはんでいる。

視察に行った農場の経営者は のんびりと のどかに話を進めた。

いつものボスなら こういった牧歌的悠長さに付き合わされると苛立つのだが
今日のジェイは悠々として 奇跡と言っていいほど穏やかだった。

 


視察から帰る車まで待って ついにバーニーは好奇心に負けた。


「・・ヘィ ボス? 全て好調か?」

「まあまあだな」

この契約は 事業部へ下して話を進めさせてくれ。 それから秘書に連絡しろ。


「フェローシップミートのレセプションに行く。出席の返事をするようにと」

「フェローシップミート?! ボスが 親善パーティーに出るのか?」
「ああ」
「・・・そのパーティーに誰か 捕まえたいターゲットでも出席するのか?」
「いや? ちょっとしたアピールだ」

「?」

 

ジェイは 口の端をわずかに上げた。 昨夜のことを思い出していた。

「パーティーへ行く」とメールで伝えて来たパフを ジェイは電話で問い詰めた。

嘘をつかないパフに聞けば 相手の様子が手に取るように判る。
老チャン・リーは"狂喜"したらしい。 ・・これで パフは僕のものだ。

 


「・・・」

「もしかして パフィーさんと一緒か?」


「女性をエスコートするのは久しぶりだ。 あぁ 現地の秘書を用意してくれ。
 顔を知らない相手が多いから プロンプターをしてもらわないと」
「・・本当かよ。 鉄のジェイクが女性同伴? 随分と彼女を気に入ったんだな。
 頼まれたプロフィール上がってきたけれど じゃあそれは もう要らないか?」

「プロフィール? そうだったな」

 

彼女の"横顔(プロフィール)"ならすでに見た。 波の上の こしゃくな横顔を。
はじけるように明るい笑顔に 僕のダイアがよく似合っていた。

「表面的なことしか調べてないぞ。 あ・・それに医療記録・・」

「は・・・」

「疾病なし。 うん?ずいぶん外科や整形外科の記録が多いな。ねんざ・・骨折・・
 何だこりゃ? "クラゲに刺されて"入院したのか?!」
「?!」

 

"頑丈な上に知っての通り はねっかえり。 パパは 私が騒ぎを起こす度に
"お前はまったく マジックドラゴンの方のパフだぞ!"って 笑って・・"


「・・・」

「なぁボス・・?」
「・・・」

 

パフィーさんの親父さん 病気なのか? 

「・・ぇ?」
「ここだよ 両親に関しての項目。 母親は[死亡]。父親は[シドニー在住]。
 だけどシドニーの住所というのが これ 病院の病棟内だぜ」
「?!」


——–

 


木曜の午後。  ホテルの控え室へ迎えに行くと パフは美しく着飾っていた。

「きれいだな」
「・・・」
「もう 行けるか?」

「・・・はい」

猫をかぶった食わせもの。 だけど 「嘘は」決してつかない。

 


「お金が必要だった」と パフは言った。

率直な理由だとジェイは思ったが どこかで 少しがっかりもしていた。
だけど自分はまたこの娘に 誤解へ追いやられていたのかもしれない。


「・・1つ 聞きたいことがあるんだ」

「何でしょうか?」


「君がチャン・リーに近づいたのは 金が必要だったからと言ったな?」
「ええ」
「その金は 君の父親の治療に充てる費用なのか?」

「・・・」

「答えは Yes or No?」

 

 

きれいにまとめてあげた髪に 百合と羽飾りが揺れていた。

控え目なローズに塗った唇がゆがんで 小さくYes・・と答える。

 

ジェイは思わず眼をつぶり パフを胸の中に抱きしめた。

 

 

13 Comments

  1. しばらく出遅れていたけど、今日は間に合った!!!!
    dalメンテも間に合ったようで、めでたい。
    留守中、ここを覗いてのけぞった方もいらしたのかな。
    頑張ってくれたstaffに感謝いたします。よかった・・。
    ぐふふ、なんでも自分のプラン通りに進めるのに慣れてるジェイ。
    世界中、なんでもお見通しだと思ったら大間違いよ。
    いちおう、臭くない甘~い「ロマンチック」プロポーズするはずだったのに。
    ほとんど「ビジネス提案」のようなプロポーズ。
    ジェイ、一生の不覚よ。
    女は絶対忘れないんだから。
    でもラスト、自分の思惑通りでなく、
    思わず「胸に抱きしめた」
    きゃ~~!きゃ~~!きゃ~~!
    いいわあ。わたしにもジェイの胸の匂いがするようで・・・
    ああ、倒れそう。
    パフ、思い切りジェイをきりきり舞いさせておやり!
    ほほほ・・・

  2. へへへ・・(^^;)すんません。
    四苦八苦して やっとvaiちゃんに手伝ってもらいながら上げた。
    しかしまだ 私の問題は解決していない。
    どうなる 来週のパフ?! 中身もそうだが上がるのか?
    ●あ、アンコちゃんいらっしゃーい!
    キリギリスはすんなり上がったみたいね。
    何でかなあ(T-T)・・
    >いちおう、臭くない甘~い「ロマンチック」プロポーズするはずだったのに。
    >ほとんど「ビジネス提案」のようなプロポーズ。
    ジェイも 歯噛みしてるんだけどね。
    「『契約』したからコン・チャン・リーの決めた相手と結婚する」というパフに ロマンチックに迫ってもその気になってもらえそうもないし 
    そうしている間に チャン・リーが動いちゃ大変と まずは「確実に」パプを手に入れようとしています。
    >ジェイ、一生の不覚よ。
    >女は絶対忘れないんだから。
    そうよねー。
    ジェイにあんな風に言われて パフは自分が商売物だとめげたはず。ああ 恋がどんどん遠い・・

  3. 優しいじゃん、ジェイ^^
    違和感の正体が思った通りで、ホッとしたら愛おしくなっちゃったかな(*^_^*)
    お父さんのために悲壮な覚悟を決めてリーじいさんの言いなりになってるパフちゃんだけど
    だからこそ、ジェイに出逢えた訳だしね・・・
    人生、何が幸いするかわかりません・・・
    なかなか手強そうなじいさんではありますが、ジェイなら軽く手玉に取りそうだよね^^
    早くジェイとパフの心が通うようになって、ふたりでリーのじいさんをコロコロ転がしてほしいわ~^m^

  4. >四苦八苦して やっとvaiちゃんに手伝ってもらいながら上げた。
    >しかしまだ 私の問題は解決していない。
    >どうなる 来週のパフ?! 
    えええ?そおなの?
    せっかくジェイが胸に抱きしめたのに・・・。
    パーティに行けないで、そのままか(笑)
    >キリギリスはすんなり上がったみたいね。
    いや、スレが2本立っちゃって、「なんで?」と思ったけど
    時間ないのでそのまま出ちゃったの。
    一本のスレは「エラーです」スレだった。
    と、こんな内輪チャットをしちゃってすまんです。
    まあ、明日ためしに上げてみますです。

  5. あぁ、抱きしめちゃった。
    あんまりいじらしくて、我慢できなかったんだね。
    >・・これで パフは僕のものだ。
    これって、ビジネス上の言葉じゃないでしょ、ジェイ。
    きれいなパフをパーティで自慢げに見せびらかすんだろうなぁ。
    次回も楽しみです。
    ボニさん、なんとか頑張ってあげてくださいね。

  6. わぁ~!!名無しでポチッとしちゃった。
    ↑上のコメントはyuchekkoです。
    失礼しました。

  7. 皆様 サイトが不安定な中レスに来てくれてありがとう!
    ●ちのっちちゃん! どうもありがとう!
    >違和感の正体が思った通りで、ホッとしたら愛おしくなっちゃったかな(*^_^*)
    そうですね。 もうドンドン恋みたい。
    とにかくパフを手に入れる為に 一所懸命なジェイは
    相手の気持ちを考えずに どんどん手を打っていくけど。
    そんなジェイにとって パパの為にパフがしたことが
    びっくりするような事だったと思います。
    ●あり アンコちゃんおかえり~♪
    ・・私は今 上げたスレの訂正が出来ないですぅ・・
    ipadで見ると 創作へたどり着けてないですー。
    >と、こんな内輪チャットをしちゃってすまんです。
    まったくだ。 裏でやらねばね・・全開なアタシ達・・
    ●yuchekkoさんも どうもありがとう~~!!
    >>・・これで パフは僕のものだ。
    >これって、ビジネス上の言葉じゃないでしょ、ジェイ。
    そうですね(^^;)
    全然ビジネスじゃないのに 思いっきりビジネスライクに
    話を進めちゃったジェイ。
    こんなんで パフの気持ちをつかめるのか?
    >次回も楽しみです。
    >ボニさん、なんとか頑張ってあげてくださいね。
    (T-T) ありがとう・・・頑張ります。
    って PCオンチのアタシはどう頑張ればいいのか。
    イマイチそれも 怪しいのですが でも頑張ります。

  8. 思わず抱きしめちゃったんだ~
    もうあちこちで本音が出てるよお~!
    でも、自分の本音すらジェイはわかんないんだね!?
    超ロマンチックなプロポーズのはずが、商談のように話しちゃったジェイ、パフに言われて苦虫噛んでますね。素直じゃないんだから!
    ジェイとコンチャンリーの駆け引きが始まりましたね。
    間でパフはどんな顔するんだろうね?
    うれしい?困った?当惑?悲しい?
    3人にとって筋書き通りで万々歳と行くには、パフの契約が恋にならないとね~
    う~ん、今回は40話?50話?
    楽しみ!

  9. はぁ~~
      ジェイはすっかり恋にはまっているけれど、自覚無し!
      パフィはこれで、ジェイに恋心を持てるかな~~?
      単なる契約者から、早く愛しい人に変わってくれるよう
      素敵なパーティーにしてくださいませ。
    ・・・にしても、チャン・リー、ちょっと腹立たしいおじいさん!
    パフィの父親を思う心を利用して、エサを仕掛けるみたいに
    動かそうとして・・・・
    これはきっと後でジェイに痛い目にあわされるわ!!(願望)

  10. 今回はちょっとパフィーがもの悲しかったです。
    ジェイとチャン・リーが商談のように話しを進め、間に立つパフィーを愛しい女性の、孫の扱いでは無かったですね。
    でも最後に、パフィーを抱きしめちゃったのは、頭で考えるよりも、感情が身体を先に動かしたようで。
    もう完璧、ジェイは落ちましたね。
    これからしっかりとチャン・リーとの戦いに挑んで、少しでも早く
    パフィーから自分に、心からの笑顔をもらえるように、ね!!

  11. >“検討してもいい”ですってーーーエッーーー
     思わずフリーズするような 言い回しだわ ふん!
     世の女性を敵に回してもいいとでもいうような
    >“情けないプロポーズ” 本当に‥
     本人が自覚しているだけ 余計に善くないわ。
    神津善行さんによると お花は 音楽や人間からの声掛けに
    「今日は綺麗だね!」や「咲いてくれてありがとう!」に応えて
    より一生懸命に頑張って 咲いてくれるのだそうです。
    ジェイのこんな言い方を お花たちが聞いたらいっぺんに
    うつむいて枯れてしまいそう‥
    でも、でも、男と女が出逢う・恋に落ちるときって
    自分の価値観を吹っ飛ばすような そんなものかもしれない。。
    ボニさま
    二人の恋の前途は、スムーズなものではないでしょうけれど
    最後の>思わず パフを胸の中に抱きしめた。
    王さまのジェイが 気ままな風の妖精パフを追いかける
    恋物語を 時に泣き、怒り、笑いながら 楽しみにします。
    アップまでのボニさんへのエール “愛しています!”

  12. >ジェイは思わず眼をつぶり パフを胸の中に抱きしめた。
    良いわ、良いわ~♪
    思わず胸キュンです^^
    心はすでに、僕のかわいいパフィー、僕が守ってあげるよ、ですね。
    この後、ジェイは、自分をどう納得させるのでしょう。
    そして、パフィーちゃんには、どう説明するのでしょう。
    しかし、ジェイ君、パフィーが老チャン・リーに
    自分の作戦をぺらぺらしゃべってしまうって危惧はいだかなっかったようですね。
    自分への自信か、はたまたパフィーへの信頼からか。
    自分以外の男の選択肢なんてあるわけないって、考えもしなかったんだろうな。

  13. 作業に伴い、コメント欄が非表示になりますが、
    「読んだよ」からはメッセージが送れます。
    ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

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