02パフ ー僕の風を追いかけてー

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「ソウルへは 春節で来たそうなの。 その方」


シン家の未亡人は ひとめで気に入った娘を 思い出しながらうっとりと言った。
アジアン・ソサエティのパーティーへは お爺様の言いつけで出席なさったとか。

 

「26歳と言っていたけど ・・お前とはひと周り違いかしら?」
「僕は37です。 チャン・リー財閥の孫というのは確かですか?」

「?! ・・ええ。パフィーさん本人がコン・チャン・リーの孫だと自己紹・・」
「パフィー? チャイニーズではないんですか?」

「・・・」


お父様が オーストラリアの方なの。 
 
「あのね 可笑しいのよ。 お父様はアイルランド系のオーストラリア人だとかで
“私って『クアトロピザみたいに』いろいろ混ざっているんです”なんて。フフ・・」
「父親がオージー? コン・チャン・リーに娘がいたのか」

「・・・」

 


シン家の未亡人はいぶかしむ眼で ソファに座るジェイを見つめた。

2分前まで 今にも逃げ出そうとしていた孫の 矢継ぎ早な質問に戸惑っていた。


膝の上へ肘を立て 冷やかな眼を細めるジェイに 祖母は小さく眉を寄せる。

自分の言ったことの 何に 興味を引かれたのか知らないけれど

普通なら 可愛らしい若い女性を お嫁さん候補にどうかと薦められた男は
“冷やかな眼を細めて” 話を聞いたりは しないはずだ。

 


「・・・」


「では シドニーへご一緒します。 チケットはこちらで手配していいですね」

「・・ジェイや?」
「はい」
「お前 チャン・リー財閥とビジネス上で その・・何か確執があるの?」

「・・・」


疑うような祖母の問いかけに ジェイは ゆっくり眼を上げた。
ガラスの様に無機質な瞳には ひとかけらの感情も浮かんでいなかった。

「いいえ ハルモニ」

「・・・」

 

あちらもコングロマリット(複合企業体)ですから 時にはコンペティターになります。

ジェイの声はもの柔らかで 低い声音の心地良さが 祖母を一層不安にした。
大体において彼女の孫は 柔らかさとは対極にいる男だった。


「コンペティターといちいち“確執”していては ビジネスになりません」

「・・そぅ・・・」

 


“お水を 持ってきましょうか?”

心配そうに聞いた女性の優しい声を シン家の未亡人は思い浮かべた。

賑やかなパーティー会場の隅の椅子へ 動悸をこらえて座り込んだとき
あの娘さんは 見ず知らずの私を見て 瞬時に顔色が悪いことに気づいてくれた。

 

「・・・ジェイや・・」

「はい ハルモニ」


「私ね。 実はパーティーで 発作が出たの」
「?!」

「パフィーさんが介抱をしてくれて。 その・・家へ連絡もしてくれたのよ」
「介添人をお連れにならなかったんですか?」
「お前が手配してくれる“優秀な”女性は ・・苦手なの」

「・・・」

 

ジェイの眼に抑えた怒りが浮かび 祖母は申し訳なさそうに肩をすくめた。

彼女の孫は冷淡ではあるけれど 身内に対しては強烈な責任感を持っている。
ジェイは 祖母の緊急事態に対応出来なかった自分に怒っているのだった。


「・・ごめんなさい。 次はきっと介添人を連れて行くから」

「そうしてください」

話は終わったと言うように ジェイはすらりと立ち上がった。
出口まで歩いて行ったジェイは ドアノブをつかんで立ち止まった。

 

「ハルモニ」

「ええ」
「会ってみますよ」
「ぇ?」

「・・その お奨めだという女性に」


———

 


機内に 軽い電子音が響いて シートベルト着用のサインが消えた。

バーニーはゴソゴソと座り心地を直すと 隣席のボスの様子をそっとうかがった。

 

高感度のノイズキャンセリングイヤフォンをして 瞼を閉じているジェイは
まるで心地良い音楽でも楽しんでいるかのように見える。

しかし彼が聞いているのは 秘書に口述させた仕事の資料であり

シートに沈むボスの頭の中では さまざまな戦略が検討されているはずだった。

「ボォス?」

「・・・」

「・・ちょっと聞いていいか?」
「あぁ」
「なんでマダムが シドニーまで一緒について来るんだ?」

バーニーは2:1で並ぶファーストクラスの 通路を隔てた向こうの席を顎で指す。
シン家の未亡人は キルトケットを盛大に重ねて埋もれていた。

 


ジェイは静かに眼を開けると 宙を見たままつまらなそうに返事をした。


「向こうで花嫁候補を紹介したいんだそうだ」

「はぁ・・またか? マダムもまぁよく諦めないことだな」
「会って大きな問題が無いようなら 結婚しようと思っている」
「!¥?&%$▲!」

 

書類が落ちたぞ拾っておけ。素っ気なく部下に声を掛けて ジェイはまた眼をつぶる。
ぽかんと固まっていたバーニーは 慌ててボスが座る椅子の肘掛けにしがみついた。

「誰・が・結婚するって?」
「静かにしろ 周りに迷惑だ。結婚するのは僕。 ・・なんならお前もつきあうか?」


それもいいな クックック・・ ジェイは醒めた笑い声を立てた。

お前も一緒に結婚するなら 祝儀は相殺ってことにすれば面倒がない。

 


「・・相手は“これから会う女”だってのか?!」

「“孫の結婚を願う祖母” が “花嫁候補に選んだ女”だ。  容姿? 趣味?
 そんなこんなの条件は祖母的に及第ということなら 80ポイントは確保だろ?」

「後の20は!」
「オーストラリア在住で10ポイント。シドニーに家を買えば 会うのは年に数回だ」 
「おいおい・・」
「そして ラスト10ポイント」 

ジェイの声は あたかもチェックメイトを告げるプレーヤーのようだった。 


「女は コン・チャン・リーの孫だ」

「?!」

 


“パーフェクト” 


悠然とシートへ沈みながら ジェイは満足の笑みを浮かべた。

どのみち祖母の期待に応えるために いつかは結婚しなければならない。
それなら祖母がひとめで気に入った心優しきパフィー嬢とやらは 最適だろう。


なんといっても “奴ら”から嫁を貰えば・・・

ビジネスシーンでこれ以上 理不尽などんでん返しを喰らうことがなくなる。

 


「・・・」

バーニーは呆然と リクライニングシートに背を埋めて微笑むボスを見つめた。
決断の速さと読みの確かさに於いて 間違いなくボスは天才だ。 しかし・・

“「これで100ポイント」・・だぁ?”

ボスはいかなるビジネスにも まったく私情をはさむことがない。


“だけどボスは 自分の結婚に1ポイントも「私情」をはさまないってのか?!”


———-


:in Sydney

 

ジェイが クラシカルな雰囲気の『ジ・オブザーバトリー』を滞在先に選んだのは

祖母がオリエント・エクスプレス系のサービスを好むということと もう1つ。

祖母がいそいそと呼び寄せるはずである ジェイの未来の花嫁は 
彼女が言う通りの女なら ロマンチックな背景を好むだろうと計算したからだった。

 


「ひゅ~! ・・ったく なんてロマンチックなんだ」


スパから戻って来たバーニーが どうしようもないと言う様に頭を振った。

このホテルときたらプール&スパの天井が いちめんの“素敵な”星空ときてる。


「こちとらビジネスユースのオヤジだぜ。あんなスパで どうやって寛ぐんだ?」

「部屋のバスを使え 天井に星は無い」

ノートパソコンのモニターを凝視したまま ジェイは顔も上げなかった。
今回はレディ・ファーストなんだよ。 婚約に持っていくまでだ 我慢しろ。 


「それより どうせ結婚してシドニーに拠点を持つのなら こっちの養殖場や農場と 
 もう少し契約を拡大してもいいんじゃないかと思うんだ」

「・・なあボス 本気なのか? チャン・リー財閥の孫娘と?」


「まあな。 相手のあることだから Yesと言わせなければいけないんだろうが?
 実際に会ってみれば 落とし方も見つけられるんじゃないかと思っている」
「そっちの首尾の方は・・心配してないさ」

「じゃあ何だ? 敵が爺ぃ並みのゲテモノだったらか? プランをボツにするだけだ」

 

まったく・・
 
「そっちの話はもういいから ビジネスモードになってもらえないか?」

イライラとした声に変わってきたボスに バーニーは それ以上の会話をあきらめた。

どのみちボス・ジェイ。 ジェイク・シンは 何だろうと自分の思うままにする。


——–

 

 

「来てくれて本当に嬉しいわ」

「こちらこそ♪ ようこそオーストラリアへ」


シン家の未亡人は にっこり微笑んだ。

久しぶりに会った娘が 記憶していたよりも美しいことに満足していた。


すらりとした手足に 優しげな表情。 大きな眼はうっとりするような琥珀色だ。
鼻筋の通った鼻は 尖端だけちょっと反っているのが とても愛らしい。

口の端が笑うように上がっている唇は 若い色香が匂い立つようで

未亡人は 彼女の横へ空想の孫を並べて 似合いのカップルだとひとりごちた。

 

 

「それにしても素敵なホテルですね。 私 1回入ってみたかったんです」

「あら こちらのホテルは初めて?」

「だってここは私などには エクスペンシヴ過ぎますから」
「ま。 チャン・リー財閥のお孫さんがそんなことを。ふふ・・」
「・・・」


貴女のためにスイートを取ったのだから 今夜は 絶対泊まって行ってね。

「・・え?」


シン家の未亡人は ここぞとばかり有無を言わせない強引さで押した。
シドニーの夜に 年寄ひとりでディナーを食べるなんて嫌なんですもの。

「え? あの・・ こちらへはお独りでいらっしゃったのですか?」  

「孫の出張に便乗したのよ。 でも 仕事仕事でどこにも連れて行ってくれやしない」
「・・まぁそんな。 じゃあ 市内観光もまだ?」
「独りじゃ また具合が悪くなっても困るでしょう?」


上目遣いの未亡人は 自分の演技力ににんまりしていた。

眼の前に座る心優しい娘は 困惑と それ以上の親切心でいっぱいになっていた。

 

「ではあの私・・が・・マダムをご案内・・・・」

「まあ!嬉しい! じゃあまず ハーバークルーズにでも行きましょうか?」
「え? ええ・・・」

 

 

そして2人が市内観光を終え メインダイニングのディナー席へ落ち着いた頃

仕事を終えたジェイク・シンが 花嫁を獲りに 現れた。

 

 

 

12 Comments

  1. ボニさん、みっけ!!^^
    ふたりのご対面は次回なんですね。
    お預けくった気分ですが、すっごく楽しみです(#^.^#)
    会った瞬間、お互いがどんなふうに感じるのか興味津津!
    100%ビジネスモードのジェイがどんなふうに恋に落ちるのか。
    恋の生まれる瞬間に立ち会えるなんて、最高にワクワクします!!
    ドンヒョクみたいに一目惚れしちゃうのかな・・・
    それとも、最初は素っ気なかったりするのかな・・・
    パフィー嬢はジェイをどんなふうに見るのかな。
    ああ・・楽しみ!楽しみ!^^
    それにしても“コン・チャン・リーの孫”というのはジェイにとっても
    パフィーにとってもいろんな意味で“枷”になりそうな予感が・・・。
    ボニさん、次回が待ち遠しいです~~ぅ(^^)

  2. ●ふふふふふ ちのっちちゃんお早くありがとう(^m^)
    いろいろ説明しているうちに 2人が会うのが来週になっちゃった。
    ごめんね。 のんびり書いて行くつもりです。
    >100%ビジネスモードのジェイがどんなふうに恋に落ちるのか。
    これはね~・・・・
    そのシーンだけが 話そのものより先に出来ていたんですよ。
    >それにしても“コン・チャン・リーの孫”というのはジェイにとっても
    >パフィーにとってもいろんな意味で“枷”になりそうな予感が・・・。
    (((^m^)) ふふふ・・・そうですか?
    ああ 種明かしをしたい。 それより早く先書けと言われるだろうけど。

  3. ほ~んと、出会いの瞬間が楽しみで~す❤
    私が大好きだった独俳優(仏映画でしたが)を一目見た瞬間を未だに忘れられません(中2の時・きゃ~~~○十年も前だ!)列車から降りてきた彼の足もとから、カメラがすーっと上がって行き顔を映した瞬間、呼吸が止まりました!!
    ジェイクはこんな風にはならないと思いますが、なにか引っかかるんだろうと、推測します・ボニさん!
                    ワクワク❤

  4. ●Mamamaちゃん、いらっしゃい‥いつもありがとう。
    でも、ごめんなさい。
    ちょっと‥インフルエンザに罹ってしまって。
    今日は寝させてもらいますう‥
    あーっ身体が痛い。

  5. わぁぁぃ!!!ボニさんの新しいお話だぁ。
    結婚も仕事の一つと考えるジェイがどんなふうに変わるのかが
    楽しみです。
    どんなふうに二人は対面するのかな?
    次回をお待ちしておりまするぅぅぅ♪
    ボニさん。インフル大丈夫?もう治まった???

  6. ●mizukyちゃんいらっしゃいー!
    〉インフル大丈夫?もう治まった???
    ダメです〜

  7. ボニさ~ん、大丈夫ですか~@@
    どうぞお大事に。
    ジェイは、今のところ、自分ペースだと余裕みたいですが、
    パフィーにどんなふうにかき乱されるんだろう~
    楽しみです~
    >そして2人が市内観光を終え メインダイニングのディナー席へ落ち着いた頃
     仕事を終えたジェイク・シンが 花嫁を獲りに 現れた。
    この歩く姿がしっかりと見えてしまう♪ふふ
    きっと片手はポケットに入ってるはず♪とか~

  8. ボニさ~ん、イン(ヨン?)フルエンザお見舞い申し上げます~!
    流行の先端をいくのも、時にはツライですね~;;
    お早いお回復を祈っております~。
    ・・で、この「気難しいかんしゃく持ちのイイ男」さん、
    仕事の上で勝つために結婚も考えていると~??
    この彼がどんな風にきらめく恋に落ちていくのかな~?
    パフとの出逢いがもうすぐそこまで・・・
    あぁぁ~ドキドキワクワクですーー!
    あれこれ想像しても、ボニさんのお話は一気に上をいくから
    中毒になってしまうんですよね。^^
    1話の最初の部分もちょっと謎めいていたから・・・
    次回を首を長~~~くして待っております^^
    でもお大事にしてくださいね。

  9. ボニさんもインフルエンザに罹るんですねぇ。
    ・・・あっ、ボニさんも人間だったんだぁ?!
    ところでジェイさん、
    「結婚」は仕事の一部分じゃ無いでしょ!
    「パーフェクト!!」って、あなた、なんでもかんでも数字で考えちゃだめでしょ!!・・・ってとなりのおばちゃんになってしまいました。
    「人を恋う」という感情を持たないあなたは、ホントに淋しいひとです。
    某映像作家さんが綴ってくださっている、最初の頃の冷たい目を持ったドンヒョク、そのものです。
    さあ、次回はパフィーとご対面ですね。
    ボニさん! 早くインフルエンザを治して、お仕事(作家先生)に復帰してくださいね。
    待ってま~す(^^)/

  10. ほわ~・・・久しぶりのインフルエンザでした(^^;)
    ♪懐かし~い~♪痛みだ~わ~♪ずうっと前に~
    と 思わず歌ってしまいました。
    インフルエンザって身体が痛むんでしたね。
    という訳でお客様が来てくれていたのに失礼しました。
    ●れいもんちゃん 返事が遅れてごめんね。お見舞いどうもありがとう!
    >ジェイは、今のところ、自分ペースだと余裕みたいですが、
    相手は「小娘」だとタカもくくっていますね(^^;)
    若い娘の気など知る気もないけれど うまくやってやろうと思っています。とにかく傲慢な奴です。
    >> 仕事を終えたジェイク・シンが 花嫁を獲りに 現れた。
    >この歩く姿がしっかりと見えてしまう♪ふふ
    ありがとう♪ ふふふ・・
    もちろん手はポケットに差して ほんの少しうつむき気味に
    まっすぐ歩を進めているはずです。
    ●hiro305さん ご心配おかけいたしました。
    インフルエンザの方はもうだいじょぶ!
    ヨンフルエンザの方は・・・もっと重症にして欲しいんですけどねえ(--;)罹る気満々なのだけど いい感じのウィルスが飛んで来なくてねえ。
    >・・で、この「気難しいかんしゃく持ちのイイ男」さん、
    >仕事の上で勝つために結婚も考えていると~??
    ジェイという奴はもう 筋金入りの「冷酷なケンカ屋」です。
    ビジネスで勝つことだけが 存在理由みたいに思っている。
    >あれこれ想像しても、ボニさんのお話は一気に上をいくから
    きゃ~!!!(^▽^;)たいへ~ん!!
    一気に上 を行けるかしらー! が、頑張りまーす!
    楽しく明るく進んでいく話にしようとは思っているのですが・・
    ●いや~yuusai さん まったくです。 アタシも罹るんだインフルエンザ。ワクチン嫌いで大体しない。大流行の年もワクチン無しで平気だったので 家の者も「やっぱ罹るじゃん」と言っていました。
    >「パーフェクト!!」って、あなた、なんでもかんでも数字で考えちゃだめでしょ!!・・・ってとなりのおばちゃんになってしまいました。
    あっはっは! まったくですよね。
    確かに淋しい奴なんですが 当の本人は今のところそれも感じていない。適当な目標物を見つけて 獲ろうと身構えています。

  11. あちらこちらに姿が見えて、
    読んでいると映像がちらつきます(#^.^#)
    >実際に会ってみれば 落とし方も見つけられるんじゃないかと思っている
    なんだか余裕のジェイだけど・・・ぐふふ。
    いつまでクールでいられるか、楽しみです!
    ボニさん、インフルから復活してよかった~!
    私もヨンフルなら罹りたいわん^^♪
    今年は大流行の‘兆し’があるといいな。

  12. ●あ、 ナココちゃんいらっしゃいませ! 
    お見舞いありがとうございます 元気になりました♪
    >いつまでクールでいられるか、楽しみです!
    はい(^^)
    今回は 翻弄されるジェイを楽しむお話だと思ってくだされば嬉しいです。
    >私もヨンフルなら罹りたいわん^^♪
    >今年は大流行の‘兆し’があるといいな。
    (--)本当ですよねえ・・しみじみ・・・・
    こうして罹る気満々のまま 大人しく待っているものが
    どれほどいることか。
    今年こそは があるといいな。

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